【2020年5月16日ニュース】裁判官弾劾制度と訴追請求について

 司法の独立は、民主主義を実現するための重要な要因であると考えられておりますが、日本の裁判司法の実際においては、この概念が誤解されているのではないかと思います。民主主義においては、権力の源泉は人民あるいは国民であり、いわゆる三権分立の一つである司法は、それ自身が権力の構成要素であり、行政、立法の他の権力から独立しているべきであると同時に、人民、国民の統制下になければなりません(日本国憲法前文、15条、78条)。日本の裁判司法において、この機能がどの程度有効に機能しているのかは、私たち裁判司法研究会の発足当初からの研究、検討課題でした。

 日本国憲法15条は、公務員の選定及び罷免は国民固有の権利であると定めており、合わせて裁判官の公的な弾劾に触れている78条を実現するものとして裁判官弾劾法による弾劾制度があると考えられています。しかし、この制度が裁判官の行為を国民の視点で統制する本来の機能を満たしているかについては、否定的な見解が一般的です。

 2017年12月に発生した、東京地裁・高裁の庁舎内での、傍聴希望者に対する建造物不退去罪事件の裁判を傍聴した私たちは、警備法廷を執拗に実施して、その結果被告人が裁判に出廷しない欠席裁判になったまま、刑事訴訟法の規定の都合の良い解釈を口実に、まともな事実確認を行わずに有罪判決を言い渡した裁判官の職権行使は、裁判官弾劾法2条1項の「職務上の義務に著しく違反し、職務を甚だしく怠っている」のではないかと考えました。この考え方に基づき、2019年9月24日付で、裁判官訴追委員会あてに訴追請求状を送付しました。この経験は、私たちの裁判官弾劾制度や刑事訴訟法の認識を深めました。

 この請求行為の評価あるいは意義については、簡単に結論を導けません。一つ言えることは、裁判官弾劾制度が司法制度全体において非常に重要な部分を占めているにもかかわらず、その実務や研究はまったく不完全であるということです。

 私たちは、この問題意識を提起するために、訴追請求に関する資料をウェブで公開しました。読者の皆様のご意見、ご批判を期待し、また、この問題が広く人々の間で意識され、検討される契機になればと思います。

「東京地裁平成29年刑(わ)第3273号建造物不退去事件」に対する裁判官訴追請求事件資料集

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